絵の具の原料である「顔料」について

顔料とは

アクリル絵の具でも水彩絵の具でも油絵具でも、色の元となっているのはこの顔料です。顔料は鉱物や土などの天然無機顔料をはじめとし、染料を顔料化したレーキ顔料、石油を原料とした合成有機顔料など、様々な方法で生成され、発展してきました。

顔料を、アクリルエマルションで練るのか、アラビアゴムで練るのか、乾性油で練るのかによって、アクリル、水彩、油など、絵具の種類が決定します。

顔料と染料の違い

染料は水に溶けますが。顔料は水に溶けません。染料はその名の通り染めることで着色が可能ですが、顔料は表面に乗るだけなのでそれ単体で水に溶かし着色することはできません。

染料を顔料化したものに、レーキ顔料というものもあります。

プリンターにも染料インクと顔料インクがあります。染料インクのプリンターで印刷したものに水をかけてひどく滲ませてしまったことはないでしょうか。

染料は水に溶けますので、印刷物を濡らすとにじむのはこれが理由です。逆に顔料インクのプリンターで印刷したものは水に強い傾向があります。

顔料はどうやって支持体に固定されるか

顔料は、水などに溶いてそのまま塗っても固定されることはありません。

昔の人は、消石灰や砂で作られた生乾きの漆喰の上に顔料を乗せることで絵を描きました。これをフレスコ画といいます。

CO2と消石灰が反応する過程で、透明な層が表面にできて染み込ませた顔料が閉じ込められることで、漆喰への顔料の固定を可能にした技法です。その特性からフレスコ画は生乾きの状態でしか描くことができない、描き直しができないなどの特徴があります。

後に展色剤と顔料を混ぜ合わせることで、支持体に固定する絵の具が開発されました。油絵具は油の中に顔料を閉じ込め、アクリル絵の具は水の中にアクリル樹脂が分散されたアクリルエマルションがのりの役割を果たし、顔料を支持体に固定します。

有機顔料と無機顔料

有機顔料は石油などから作られた顔料、無機顔料は鉱物や土などの自然物や、金属の化学反応によって作られた顔料です。有機顔料は発色に優れており、無機顔料は耐候性に優れている傾向があります。

今はメーカーなどによって絵の具の進歩や耐光テストによって、紫外線など外的要因による変化が少ないものが増えていますが、合成有機顔料の開発初期は、耐光性が足りずに絵画の色が変化してしまうこともありました。

現代の絵の具の耐光性については、絵具のチューブやメーカーのカラーチャートで知ることができます。→「アクリル絵の具に使われる表記一覧

単一顔料とは

単一顔料とは、その色を出すのに他の顔料を混ぜていないことを示します。顔料を混合していないので絵の具自体の発色がよく、そのため絵の具を自分で混ぜたときも発色が綺麗です。

各メーカーのプロ向けアクリル絵の具はこの単一顔料の質や本数を売りにしているものが多いです。

単一顔料であるかどうかは、絵の具のカラーチャートや、チューブに記載されています。

現代の絵の具の耐光性については、絵具のチューブやメーカーのカラーチャートで知ることができます。→「アクリル絵の具に使われる表記一覧

顔料の原材料と変化

顔料は、時代によってはヒ素などの毒物を含むものや、とても高価な鉱物を原材料としていることがありました。

ウルトラマリン
かつて、鉱物ラピスラズリから作られていました。ラピスラズリはとても高価で、代わりの合成顔料が作られた当時の値段は1000倍もの差がありました。現在も安価な合成顔料が主流です。
ラピスラズリからのウルトラマリンの生成は、青金石のみを取り出さなければならず、一週間以上かかります。ウルトラマリンに限らず絵の具の生成には数週間、1ヶ月以上かかるものもあったため、手作業での顔料の生成は骨の折れる作業だったことがうかがえます。
インディアンイエロー
過去、マンゴーの葉を食べる牛の尿から作られていました。多くの牛が栄養が足りずに死亡していたため、動物愛護など倫理的観念から元の製造方法は禁止され、現在は合成有機顔料が使われています。
カドミウムを含む絵の具
発色や耐光性から、他に変わりとなる色がないため有害物質が含まれていても製造されてきましたが、リキテックス(Liquitex)はこのカドミウム絵の具の代わりとなりうる絵の具「カドミウムフリーシリーズ」※1を開発しました。
健康、品質ともに配慮された絵の具が日々メーカーによってすすめられています。

顔料の取り扱い

顔料はアクリルジェルメディウムなどの展色材を用意することでアクリル絵の具の様に塗ることができます。

ただし、前の項目で述べたカドミウムのように、顔料の中には毒性が含まれているものもあるため、使用する場合は必ず手袋をする、防塵マスクをする、顔料が触れたもので顔を触らない、目に入れない、口に入れない、呼吸によって体内にいれない、飛散させないなど多くの注意が必要となります。

製造会社の注意書きや使用方法をよく読んで使用することをおすすめします。

参考文献
フランソワ・ドラマール&ベルナール・ギノー著 柏木博監修 ヘレンハルメ美穂訳(2007年)『色彩-色材の文化史』創元社
※1 バニーコルアート株式会社 「News 【世界初】健康や環境に配慮した安全・安心なアクリル絵具「カドミウムフリーシリーズ」リキテックスより新発売」
https://www.bonnycolart.co.jp/news/detail/15/
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